仮想通貨税金計算サービスを提供するクリプタクトは、2018年2月23日から税理士向けの有料サービス「taxpro@cryptact」の提供を開始した。複雑で煩雑な仮想通貨の損益計算を自動化する。税理士が業務で利用することを想定したサービスで、個人向けの無償サービス「tax@cryptact」のプロ版との位置づけである。

サービスの背景には、仮想通貨先進国となった日本特有の事情がある。日本では2017年4月、世界に先駆けて改正資金決済法(いわゆる仮想通貨法)で仮想通貨を法的に定義した。そして2017年9月、国税庁は仮想通貨による利益が雑所得に分類されることを公表。2017年12月には仮想通貨に関する課税のルールを定めた文書「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」を公表した。

国税庁が公表したルールを見た個人投資家からは、一種の悲鳴にも似た反響があった。ひとつの理由は、株式の売却益などで用いられる分離課税が適用されないこと。仮想通貨の売買で得た利益は雑所得として総合課税の対象となり、税率は最大55%(所得税と地方税の合計)と高い。もうひとつの理由は、発表された損益の計算方法が非常に複雑で、取引量が多い投資家にとって計算が困難を極めることだ。2017年は、ビットコインが年初から最大約20倍の高騰を示すなど仮想通貨全般で活発な取引があり、その数十パーセントは日本円での取引だった。2017年には膨大な仮想通貨取引が行われており、そこに参加した多くの日本人はどのように税金計算をすればいいか困っている。

この状況を受けて仮想通貨の税務計算のためのWebサービスが複数登場している。個人が公開したツールである「BITCOIN TAX」もあれば、スタートアップによる税理士紹介・記帳代行サービスの「Guardian」(関連記事)や損益計算ツールの「G-tax」(関連記事)などもある。2018年1月創業のクリプタクトはむしろ後発組といえるが、同社のサービスは機能を急ピッチで充実させ、ユーザー数も急増している。

対応取引所、銘柄、ユーザー数でトップクラス


クリプタクトの創業メンバーは、仮想通貨向けの複雑な税金計算のツールにはニーズがあると見てサービスを開発、2017年12月に「tax@cryptact」として公開した。2018年1月24日には法人化したうえでサービスを正式にリリース。2月8日には、最大手の仮想通貨取引所bitFlyerと業務提携した。bitFlyerにも税金計算に関する問い合わせが相次いでおり、そこで推薦できるサービスとしてtax@cryptactを紹介する形としている。

複数のサービス、ツールが出回っている中で、tax@cryptactは、仮想通貨の「実現損益計算」を自動化するサービスとしての完成度を追求した。1月24日のサービス開始と同時に大手税理士法人のEY税理士法人と提携し、損益計算の方法に関する税務アドバイスを受けている。今では対応する取引所数が15、仮想通貨の銘柄が1680種類、ユーザー数が1万8000人となっている。


今回リリースしたプロ向けの有償サービスtaxpro@cryptactは、税理士が顧客の税金計算を業務として行うことを想定した。基本機能はtax@cryptactと同じだが、多数の顧客に対応可能なマルチアカウント管理の機能を持たせている。今後は、プロ向けの機能をアップデートしていく。対応する取引所、取引銘柄、取引形態を増やし、大量データ処理機能を追加する。また法人顧客向けの機能、例えば時価会計、財産債務調書作成支援、経費区分変更などにも対応する予定としている。料金体系は初期契約料が5万円、管理する顧客1名につき1万円(年間)。

一つ疑問がある。2017年の所得を対象とした確定申告は3月15日が期限だ。はたして間に合うのか。同社によれば、実はtax@cryptactは商用には使えない規約なのだが、すでにプロの税理士が使っており、彼らが業務に使いたいとのニーズを形にしたものが今回のtaxpro@cryptactなのだそうだ。

クリプタクトは会社設立からまだ1カ月ほど。全株式を創業メンバーが保有する。代表取締役のアズムデ・アミン氏はゴールドマン・サックス出身、金融分野のエンジニアおよび投資家の経歴を持つ。「仮想通貨分野は投資家サイドの環境が整っておらずビジネスチャンスがある」(アミン氏)と考え、その中でさしせまった必要性が高まっている税金計算用のサービスを作った。きっかけは、創業メンバー自身が仮想通貨に関する税金計算で困っていたことだ。

代表取締役のアミン氏は次のように語る。「tax@cryptactは、僕たちが持っていた金融業界のスタンダードとITを掛け合わせて作ったサービス。特にこだわったのは仮想通貨の所得計算という取引形態、計算手法、価格などがまだはっきり定義されていないあいまいな環境の中ですべてのデータを整理、定義して計算処理を確立すること。そして全データを開示できる高いレベルの透明性を実現すること」(アミン氏)。具体的には、実現損益計算の数字をすべて公開し、税理士や国税庁が検算できるようにした。「他のサービスでは、ここまで全ての数字を開示しているものはない。税理士にとっても使いやすいはず」。

仮想通貨を取り巻く状況は激動している。前述した2017年の法律や税務の制度作りも大きな出来事だったが、さらに2018年1月のコインチェックからのNEM盗難事件を受けて、仮想通貨取引所に対する金融庁の監督の強化や、業界団体による自主規制の整備などが進行中だ。既存プレイヤーにとっては厳しい状況だが、一方で新しい状況に適応した新たなビジネス機会を発見する会社も登場してくるだろう。クリプタクトも、今回のサービスだけでなく投資家向けの環境を整える新たな事業アイデアを暖めているとのことだ。

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